俺の横で笑っていた少女は、気が付けば、俺の相棒の隣で笑っていた。
いつまでも、俺の横にいてくれると思っていたのに。
自分の娘にも満足に会えない生活の中で、彼女の存在はまるで娘と同じ位大事な存在になっていた。
彼女は何かあれば俺に意見を求め、俺も彼女に娘へのプレゼントの相談を持ちかけたりもした。
彼女の笑顔を見るたびに胸が締め付けられる感情には気付かないふりをしていた。
でも本当は、この感情に名前を付けたかった。
この感情の名前は、確かに、恋だったのだ。
気付いて、溜息を吐く。
1人では広すぎるリビング置かれた、大きなソファに身を沈める。
すると、携帯のコール音が鳴った。
画面には、相棒であるバニーの名前と、ウサギの写真。
受話ボタンを押して、電話にでる。
「ハロー?珍しいじゃねえか、お前から電話してくるなんて。」
「頼まれて仕方なく、ですよ。…ほらさん、」
相棒の口から彼女の名前が出て、心臓がどくりと脈打った。
「…はろー、虎徹?」
「どうしたんだよ、。お前、俺の携帯の番号知らなかったっけ?」
「知ってる。…でも…ぁっ」
彼女の驚いたような声がして、また心臓が大きな音を上げた。
「さんが優柔不断だから、僕の携帯を貸してあげたんです。おじさんに言いたいことがあるらしいですよ。」
「ちょっと、バーナビーさん?!」
「因みにおじさん、僕たちの関係の事誤解してると思うので先に言っときますけど、僕とさんはただの友達ですから。」
「…はぁ…?」
何が起きているのか理解できないまま、また受話口にはがいた。
「虎徹、あのね、私、言いたいことがあるの。」
「何だよ…」
心臓が苦しすぎて、呼吸が満足にできない。
言葉もまともに出てこないで、ぶっきら棒な単語しか出てこない。
それでも、暫く振りに聞くの声は、体の隅々に染み込んでいく。
「私、虎徹の事がっ…」
「、俺、お前の事、好きなんだ。」
「……はぇっ?!」
の言葉を遮って出た言葉は、自分が楽になりたくて出た言葉。
これで断られても構わなかったんだ。
「あ、わ、私も!」
「…え…?」
「私も、虎徹の事が、好きなの!」
の言葉は、自分の都合のいいように作り変えられたのではないかと思う程、自分にとって都合がよかった。
「歳も離れすぎてるし…虎徹には奥さんがいたし、楓ちゃんもいるし、正直私なんか相手にされてないと思ってたから、
迷惑だと思ったけど、自分の気持ちだけでも虎徹に伝えたいと思ったの。」
俺の横で笑っていた少女は、気が付けば、俺の相棒の隣で笑っていた。
「…じゃあ、なんでバニーのところにいたんだ…?」
いつまでも、俺の横にいてくれると思っていたのに。
「バーナビーさんには相談に乗って貰ってたの!まさかこんなこと、本人には相談できないでしょ?」
自分の娘にも満足に会えない生活の中で、彼女の存在はまるで娘以上に大事な存在になっていた。
「…、今どこにいるんだ?」
「今?あ、実は…」
「おじさーん、ちょっと外、見てもらえますかー?」
口籠ったへ助け舟を出すように、バニーの言葉が受話口から聞こえた。
ソファから立ち上がり、窓の外を見ると、見慣れたバイクが見慣れた人物を2人乗せ、街灯の下に止まっていた。
居ても立っても居られない、その言葉を体現するかの如く、俺は家を飛び出した。
「!」
「あ、こ、虎徹!」
「ほらね、僕の言った通りだ。」
彼女の笑顔を見るたびに胸が締め付けられる感情には気付かないふりをしていた。
「なんだよ、言った通りって。」
「『心配しなくても大丈夫ですよ』って言ったんです。」
でも本当は、この感情に名前を付けたかった。
「…俺ってそんなにわかりやすかったか?」
「えぇ。きっと皆、わかってましたよ。」
「ねぇ、何の話?」
「は知らなくていいんだ。…さぁ、さっきの言葉、二人きりで改めて、聞かせてくれないか?」
「さん、くれぐれも、気を付けてくださいね。」
「うるせーぞバニー!行くぞ、!」
「あ、うん!」
の腰を抱き寄せ、自分の家へと歩き出す。
どれほどこの時を待ち侘びただろう。
そして、改めて思い知る。
この感情の名前は、確かに、恋だったのだ。
モドル