「ただいまー…」




深夜遅く、TOPMAGに勤める私は雑誌の編集作業を終え、ようやく帰宅の徒についた。
自分で望んで、憧れて、この世界に入ったが反面、仕事が不安定なのが頂けないが…。
ただいまとは言ったものの、ここは私の家ではない。
ここはシュテルンビルドゴールドステージの、一等地にあるマンションの一室。
とても庶民の私には手が届かない。
合鍵を使って入ったこの部屋は私の彼氏、バーナビー・ブルックス・Jrの部屋である。
電気がついていないとなると、彼もまた帰って来ていないか、あるいは…。
大きな音を立てない様に、そっとベッドルームの中を覗き見る。
広い部屋の真ん中に置かれている大きなベッドが、不自然に膨らんでいる。




(寝てる…?)




枕元へ近づいてみると、メガネを外し、安らかな寝息を立てているバーナビーがいた。
そしてふつふつと沸き上る、悪戯心。




(名付けて『眠る彼にいたずら大作戦』よっ!)




いつもツンケンしている彼の頬を抓ってやろうとベッドの上へ身を乗り出す為に、左手をマットレスの上へ置いた。が、パキッという、何とも不吉な音が響き渡った。




「…あ…」
「ん、…?」
「あ、バーナビー、ごめん、色々とごめん!」
「どうしたんですか?」
「コレ…」




シーツを捲り、不吉な音がしたところを開けると、私の想像通り、バーナビーのメガネが割れてしまっていた。




「…これはまた、見事に。」




上半身を起こしながらバーナビーは私の左手を取った。




「怪我が無くて良かった。」
「え…」




あろう事か、粗相を仕出かした私の手の心配をしたのだ。




「いや!私の手より」
「大丈夫ですよ、ほら。」




バーナビーはサイドテーブルのライトを点け、そこに置いてあるケースの蓋を開けた。
すると中には、同じデザインのメガネが3個、入っていた。




「予備として同じ眼鏡を5個持っているんです。」
「…ん?計算合わなくない?」




5引く1で4個入っているはずなのに、そこには3個しか入っていない。




「…最近、どこかのオジサンに1個、今日と同じ目に遭わされたんです。」
「…先輩、ね…。」
「それはいいとして。」
「っちょ、」




「寝ている僕の寝込みを襲うとは…わかってますよね?」




モドル