まずいことになった。




先程の空気のまま、の事を『』ではなく「」と呼んでしまった。




も僕の差し出した手を取っており、まずいといった表情をしている。




「大隊長、殿…?」




「あ、いや、これは。」




「…詳しい事は後程、将校の方のみに自分の口からご説明いたします。先ずは撤退のご命令を!」




「…あぁ、わかった。」




とりあえず助かった、という所だろうか。




号令を出し、救出をしながらの撤退を始める。




、君は救出には参加するな。ただ撤退のみをしろ、良いな?」




「…はぁ。」




地に伏せる皇国軍、帝国軍。




息のある者、無い者。




全てを見るのは正直辛かった。




だからただ前だけを、新城中尉の背だけをみて走り続けた。




「新城大隊長殿!」




漆原から報告が入る。




「五十名以上は救出できましたが…救出のための損害も二十名を越えました…」




息を切らせながらも何とか言葉を発している様子だ。




「撤退合図の青色燭燐弾は打てるか?」




「あります。軽臼砲の砲員は生きてました。」




「すぐに打ち上げろ。」




猪口曹長の報告を全て聞くか聞かないかの内に次の命令が下る。




そしてまた新城中尉の纏う空気が変わる。




今度は妖しく。




「直ちに撤退する!今宵の地獄はここまでにしよう。」




そのまま前を向き歩いて行ってしまうかと思ったら、私に向かって腕を伸ばしてきた。




「行くぞ…いや、。」




「新城中尉!自分は…」




「いいんだ。」




ぴしゃりと言い放たれた言葉に私はただ驚いていた。




「僕が良いというんだ。いいんだ。さぁ、腕が疲れてきた。」




圧され、私は新城中尉の腕を借り、立ち上がった。




「さぁ皆。あともう一息だ。あと半刻程で夜営をしよう。
そのまた半刻後に、猪口曹長を含み少尉以上の将校は僕の天幕に集まるんだ。…行くぞ。」





モドル