大隊主力を狙う帝国軍を殲滅し、第二中隊は戦場を駆ける。




「流石に息が切れてくるな。本部はどの辺りに…」




「どうした、もう疲れたか!」




およそ戦場には似合わない大きな声。




大隊長、伊藤大佐がそこにいた。




「前衛は潰しました。退路は確保してあります。」




(えらくハツラツとしとるなこの男…)




お供は僅かに2名。




大隊本部要員まで戦闘に投入したか。




「御苦労。ついでだ、こっも手伝え。」




「願ってもない事です。」




…やはりそういう男なのだ。




「側面が意外に堅い。方陣を組みかけている。陣が完成すれば手が出せなくなる。
その前に前方から突いてくれ。」




交わされる言葉は傍に控えるにはちんぷんかんぷんだろう。




「了解。」




ふと、伊藤…大佐と視線がかち合う。




厳ついその表情が、若干柔らかくなった気がした。




幼い頃、よく構ってくれたあの時の様な表情…。




だがそれも刹那。




すぐに軍人としての表情に戻っていた。




…もうあの懐かしい日には戻れないのだ。




わかっている…。




「そろそろ敵も態勢を整えてくる。反撃を浴びる事になるだろうが…頼むぞ。」




第二中隊に背を向け、歩きだす。




敬礼をし見送っていると伊藤大佐は振り返り、手を挙げながら




「おい。騎兵もいいが猫もやるな?」




それだけ言い残し、闇と銃声と雄叫びの中、伊藤大佐は消えていった。




驚く者、笑う者、反応は十人十色。




新城中尉は、隣に座る千早と顔を見合わせ、笑った。




そして命令を出す。




「中隊、全員深呼吸3回。」




肺深く空気を吸い込み、全てを吐き出し、3回繰り返す。




「ゆくぞ!」




銃剣を構え、帝国軍へと突っ込む。




頸動脈を狙い、心臓へ突き立て、鉛玉をかわし、返り血を浴び、全ての感覚が麻痺していく。









ゾクゾクする。









心の底が冷える、震える。









奮える。









もっと、と叫んでいる。









返り血を、狂気を、もっと、もっと、もっと!









ふと気がつけば、私はこの広い戦場で一人ぼっちになっていた。






モドル