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午前第三刻半




伏撃地点




気温零下十二度




幸にして微風




「配置確認、異常ありません!」




「ご苦労。現在計画に変更無しだ。」




寒さに歯の根がガチガチと鳴り、体が震える。




いや、果たしてこれは寒さからきているものなのだろうか。




もしかすると違うかもしれない。




これは…。




隣で新城中隊長の肩がゆれた。




答えを見つけたと思ったら千早の行動に目を奪われた。




大きな口を開けベロベロと、主である新城中隊長の顔を舐めまくっているではないか。




緊張感の無い千早に体の震えが治まった気がする。




涎でも凍傷になるというのに。




なんだか愛しく思えて、私も深雪を撫でてやる。




いつもは頭を擦り寄せてもっと、とせがんでくるというのに、今日はそれをしてこなかった。




ある一点を見つめ…耳を立てていた。




何か音がしたのだろうか。




新城中隊長の表情も険しくなる。




「装填。中隊膝射撃姿勢。復唱の要無し。」




指揮に従い火薬を詰めた。




ザッ、ザキュッ…音が聞こえて来る。




段々と近付いて来る。




大勢が雪を踏む音。




大勢の…




「中隊、そのまま待機。」




新城中隊長の顔が強張っている。




きっと今話し掛けても、自らの思考の渦に飲まれ、私の声など届かないだろう。




銃を構えながら、ブンブンと頭を振る。




嫌な汗をかきながら震える手で引き金に指をかける。




天馬、恐いか?」




急に話し掛けられ驚いた。




「いえ、」




「嘘を言わないでいい。僕は、」




「新城中隊長殿。」




言葉を遮り、言う。




「それ以上は。」




「…そう、だな。」




新城中隊長はそれきり前に向き直った。




私もそれに倣い前に、大勢の敵に集中する。




その時、視界が赤に染まった。




合図だ。




「打てぇ!!」




号令に、引き金を引く。




耳と腕が衝撃で痛くなる。




向こうでも閃光が走った。




「装填急げ!」




銃声と火薬の臭いと馬の悸きと人の悲鳴。




何とか2発目の火薬を装填し終え、撃鉄を上げ、引き金に指を掛けた時、白い光が空中に上がった。









「…あっは!」









新城中隊長が、絶望的に笑った。









私も言葉を失った。




先鋒だけで大隊規模の敵増援。




「打てぇ!」




「何ともごつい眺めですね。」




「全くだ。斉射2回!」




この人は、この戦争を楽しんでいるのだろうか。




いや、きっと気分が昂ぶっているだけだ。




「あそこかな?距離三百間。」




「何がです?」




「敵隊列の中頃、銃兵部隊にあってそこだけ騎兵が多い。…将校の集団だ。」




ガチン、と銃剣を構えた。




「突撃準備。」










モドル