私も知らない内に惹かれていたんだ。




この男の魅力に。




どこに惹かれたわけではない。




彼に…新城直衛という男に。




重なり合った唇は離れ、後に残るは余韻。




何だか急に大人の階段を上った気分。




「それで…。飯にはありつけたのか?」




…会話に色気はない。




「あぁ、ハイ。若干道に迷ったりしましたが…」




「迷った…?」




「でも途中兵藤少尉と妹尾少尉に助けてもらいました!」




まさか三途の川を見たとは言えず、あった事実だけを簡潔に述べた。




すると何故か




ふにゅっ




正確には『ぐにゅっ』




「…いひゃいんれふけろ…」




頬を抓まれた。




「だろうな。痛くしている。」




「ひみがわかりまふぇん!」




「何を言っているかわからないな。」




 こ の 男 !




「はなひてくらあい!」




ばちんっ




「…いたい」




何か言い返してやろうとキッと新城中尉を見上げた。




が、その顔にはさっきまでの悪ガキのような表情は欠片も残っておらず、神妙な面持ちで私を見ていた。




「次は夜襲をかける事になる。集合は午前第一刻。今の内に休んでおけ。」




「…もう、次の戦争が始まるんですね…。」




「あぁ。これが戦争というものだ。」




ふ、と自嘲めいた笑い方をする。




何だか、そんな新城中尉が遠くに感じて。




新城中尉をもっと近くに感じたくて。




腰元に体当たりするようにしがみ付いた。




「戦争があるからいけないのです。一刻も早く終わらせましょう。」




「…あぁ。」




ありがとうと呟く声と大きな掌が頭を撫でるのとで、今まで張り詰めていた緊張の糸がふつりと途切れ、
私はそのまま意識を失った。









私は大きくなったら、白馬に乗った王子様と出会い、一生幸せに暮らしていくのだと夢見ていた。




しかし現実では、騎馬に乗った軍人が、同胞を殺しながら迫ってきている。




けれど、私の隣には新城中尉がいる。




この人と共に、皇国を守るのだ。










モドル