お、おどろいた。




もうそれしかない。




色々と起こりすぎて頭の中が真っ白になっている。




知られてしまった。




最も知られたくなかった人に知られてしまった。




私が、女だと、知られてしまった。




どうしよう、どうしよう。




とにかく詰襟だけでもきっちり着る事にした。




…気が付けば新城中尉と向かい合わせになって正座していた。




…彼も私も、正座していた。




「 … … 」




「 … … 」




互いに何を言って良いのか分からない。




気まずい。




誰か…、兄様、助けて…!!




「何故、」




意識を遠くに飛ばしていたのを、新城中尉の発言で取り戻した。




「何故、男だと偽っていた。」




もう、腹を括るしかない様だ。




「それはもうお察しの通りかと。」




「それもそう、か。では質問を変えよう。」




膝の上に作った握り拳に力を込める。




「何故、最前線まで来た。」




「…私には兄が…おりました。」




「 … … 」




「名を“”と。徴兵され、戦場に散りました。家に少しの形見と骨が届いた時、決意したのです。」




「死にに来たのか?」




静かに聞き返す新城中尉に、私はゆっくりと首を横に振る。




「だったらこんな最前線まで来ません。人の急所も殺し方も知らなかったのだから。」




「では何故。」




「…悲しみしか生み出さない戦争を、終わらせようと思ったのです。」




落ち着いた、というよりはきょとんとした様子の新城中尉に畳み掛けるように言葉を続ける。




「父様の関係で軍の動きや新鋭部隊の事は知っていました。」




「…だからあのタヌキジジィと知り合いだったわけ、か。」




「失礼な言い方。伊藤大佐には幼い頃からお世話になってました。よく遊んでくださる方でした…。」




私がここに姿を現した時、さぞ驚かれたことだろう。




絵に描いたような箱入り娘だった私が、剣牙虎――を連れ、自慢にしていた長い髪を切り、
性別を偽り、名前すら兄のもので偽り、自分の隊に志願してきたのだ。




もし自分が伊藤大佐の立場だったら、間違いなく強制送還している。




それすら見逃して頂いたんだ、今ここで引き下がる訳には行かない。




「…“”は、兄の名だと言っていたな。」




「はい。」




「本当の名は何と言うんだ?」




…新城中尉の質問の真意が汲み取れない…




「疾うに棄てました。」




「許さない。」




「…は…?」




ぐ、と詰め寄られる。




「それは、僕が、許さない。棄てたのなら拾え。」




鬼気迫る表情。ぐ、と喉が詰まる。




「本当の名は、何と、言うんだ?」




この人は、なんて傲慢で、なんて強引で。




、と…申します。」




私をこうも引き寄せ、惹きつけ、魅せるんだろう。




「良い名だ。棄てるには勿体無い。…僕が拾ってやる、。」




にやりと笑い、新城中尉は私の“名前”を呼んだ。




私は今、この瞬間に、彼に、拾われたんだ。










モドル