「いーやー助かったよ兵藤!ありがとう妹尾!」 バンバンと2人の背を叩きながら礼を言う。 「ハイハイドーモゴクローサンデシタ」 「ちょっと、兵藤少尉!」 新城中尉が、と妹尾が言うが、兵藤はケッと吐き捨てる。 「どうせ今軍議やってんだろ。」 「あ、そ、そうか。」 「しっかりしてくれよーせのおー!なーひょーどー!」 兵藤の肩をバンバンと叩きながらふざけた口調で言うと、彼の米神がぴくりと動いた。 「…それに俺は少尉だ、こいつの上官に当たる!てめぇこのやろう、もっと上官を敬え!!」 「ひー、助けて妹尾少尉ー!!兵藤にキめられ…!」 「うわ、兵藤少尉!絞まってる絞まってる!!」 つまらない事でケタケタ笑う。 今、この瞬間だけは平穏だ。 いつまた“戦争”が始まるか分からない。 次の瞬間か、一刻後か、明日か、一年後か もう二度と起こらないの、か。 私には分からない。 「…本当に助かった。ありがとう、2人とも。」 改めて礼を言う。 今度は茶化されなかった。 「ま、どー致しましてってか。」 じゃあまた後で、と声を掛け合い、2人は廊下を歩いていった。 私は障子を開けて部屋に入り、その場にぺたんと座り込む。 どっと疲れが押し寄せる。 慣れない環境で、精神的に参っているのだろう。 全身の力を抜き、部屋の真ん中まで這って行き、大の字に寝転んだ。 もうなにもしたくない。 だけどそんな訳には行かない。 わかっている。 もう私は戦場にいるのだから。 無性にを抱き締めたくなった。 後で会いに行ってやろう。 きっと彼も私に会いたい筈だ。 気が緩んだところで胸元に違和感を感じた。 サラシが緩くなっているのだろう。 そろそろ巻き直さないと…思い立ち、鞄の中をごそごそと漁る。 「あった…」 2本の包帯を取り出し、詰襟を脱ぐ。 胸の上の方で結い上げていた包帯の結び目を解く。 するすると解けて行き、冷たい空気が肌に刺さる。 と思ったら、びゅうっと風が部屋の中に入ってきた。 …おかしい。障子は閉めた筈なのに…。 背後に人の気配を感じた。 …私一人だけだった筈なのに…。 「……?!」 冷や汗が毛穴という毛穴から噴き出し、鳥肌が立った。 原因は、寒さだけだろうか。 モドル |