「…ヒマ。」




この部屋はそんなに広いわけじゃない。




精々9畳程だろう。




正直、家の自室の方が広い。




しかし、物が無さすぎるのだ。




いや、戦場のど真ん中に色々と物を持ち込む方がおかしいのか。




新城中尉ら将校とは違い、また一般兵とも扱いの違う私はする事が無く、途方に暮れるばかり。




「…炊き出しやってるって言ってたな…。」




思い出し、障子の向こうを見る。




すぐそこでやっているわけではないが、微かに香りが届く。




ぐう、と思い出した様に腹の虫が鳴る。




「…行ってみようか。」




先ほど壁に掛けた防寒具を再び着て、匂いを頼りに廊下に出た。









「…やっぱり新城中尉に場所聞いとけば良かった…!」




簡単に言えばこの開念寺の長い廊下で迷ったという訳だ。




どの障子の向こうが新城中尉の部屋かもわからないし、炊き出しを行っている場所もわからない。




腹の虫の感覚が無くなり始め、若干気持ち悪くなってきた気がする。




あぁ…私、ここで死ぬのかな…。




あれ、こんな所に川とお花畑がある…。




暖かいなぁ…ねぇ…兄様…




「い!おい!」




「えへへ…えへ」




「おい、!」




頬をパシパシと叩かれている。




兄様の名を呼んでいる…ここはどこ?




私は…




…」




「おい、気でも狂ったか。」




「ちょっと、兵藤少尉!もしかしたら妹さんの名前かもしれないよ!」




「そんな話してねぇよ。おい、しっかりしろ。」




「っは?!あ、兵藤、妹尾…」




「やっと気が付いたか。お前何でこんな所で寝てんだ?」




「寝てた…?廊下で?」




「うん、それに魘されていたし…」




「うわ言も言っていたしな。」




「うわ言?」




「そうそう、『』って。妹さん?」




「ぇ?!…あ、あぁ…まぁ…。…そう、か…」




「変な奴。で、何してたんだ。」




「あぁ…炊き出し…」




ぐぎゅるるるる、と腹の虫が思い出した途端にこれ見よがしに鳴いた。




「…腹が減って行き倒れたのか…」




「…えへ。」




「馬鹿だろ、お前。」




「 … … 」




「反論しろよ。」




「遠慮する!」




「…君…」




「はぁ〜、付き合ってらんね。」




「ちょ、兵藤?!待ってくれ、落ち着け、話し合おう?!」




置いて行かれそうになるのを体をがばりと起こし、兵藤に縋り付く。




「わ〜かったから!早く行くぞ。飯が無くなっちまう。」




「よし!案内よろしく!」




「偉そうだな、お前。このまま置いて」




「ゴメンナサイ連れてって下さい神様仏様兵藤様」




「わかればいいんだ。道に迷うなよ。」




「へ〜い。」




そんな漫才のような光景を妹尾は生暖かい瞳で見ていたとか…いないとか…










モドル