午後第七刻、大隊本部――




天龍を見送り、第二中隊は開念寺へと戻った。




導術で大方の報告はしてあるが、帰還の報告をする為にも新城は
伊藤のいる応接間へと行かなくてはならない。




「付いて来い、。」




「…は?自分が、ですか?」




「あぁ。お前も無事だと言う報告も、大隊長殿にしておかなくてはな。」




「…はぁ…。」









新城が先に立ち、廊下を歩く。




の隣には猪口もいた。




「…猪口曹長殿もですか?」




「…いや、自分は…」




、ここで待っていろ。曹長、」




「は。」




「…は?」




1人を廊下に残し、新城と猪口は少し先の障子を開け、室内へと入っていった。




(…此処は確か、大隊兵站幕僚長殿の部屋…)




暫くすると2人が部屋から出てきた。




「では頼んだぞ、曹長。」




「は、了解しました。」




敬礼をし猪口は来た廊下を今度は戻って行った。




「僕達も行こう、。」




「…はぁ…。」




また廊下を歩き始め、今度こそ伊藤の待つ応接室へと着いた。









「莫迦野郎!天龍と出くわしただと?!そんな都合の良い作り話誰が信じるか!」




「全ては既に導術で御報告した通りです。」




部屋に入ってすぐの怒号にしれっとした風に新城は言い放った。




は新城の一歩後ろで泣きそうになっている。




「否。貴様は若菜を見捨てて後退した。それで妙に時間が掛かった。違うか?」




伊藤は火鉢を抱え込みながら真意を探る。




新城は的を射た言葉に息を詰まらせる事は無く、寧ろ飄々とした態度でいる。




「…まぁいいさ。ぼんぼん一人とバカ3人の犠牲で中隊丸ごと帰って来た事の方が大事だ。
貴様の事は好きになれんがな。」




伊藤は火の付いた長巻の灰を火鉢の淵でトン、と落とした。




「導術で貴様が寄越した報告と意見を採用。敵が強引に進軍させて来る増援に夜襲をかけ足止めする。
貴様はこのまま第二中隊長殿だ。」




伊藤のその言葉に驚いているのはだけだった。




伊藤と新城はそのまま話を続けている。




その事に再び驚き、また納得した。




(ま、この位肝が据わってないとこんな所で将校やってられない、わね…)




「それと…安藤。」




「は…!」




「…無事、だな…。」




「…はい。新城中尉殿に何度も言われましたので。」




「そうか。」




下がって良し、という伊藤の言葉に新城とは敬礼をしてから部屋を出た。




「あぁ新城、後で軍議を行うから忘れず出席するように。」




障子越しに聞こえた声に新城は息を1つ吐き、何も言わずにその場から離れる。




もそれに置いて行かれない様に歩き出す。




、外で他の兵が炊き出しをしている。行くといい。」




「新城中尉は行かれないのですか?」




「僕は…後で行く。」




「では自分も後程。」




「…そうか。」










モドル