「<皇国>陸軍中尉新城直衛であります。<大協約>に基づき可能な限りお助け致します。」




中尉が敬礼をして言う相手は皇国にしかいないといわれる天龍。




彼等が手負いの時、見過ごすと我々人間と天龍とを結ぶ“大協約”に縛られる。




天龍は生まれながらに導術を身につけている。




人間がこの義務である“大協約”を無視したりなんかすると、忽ち天龍達に知れ渡り…




考えるだけで恐ろしい。




<私の姓は坂東、名は一之丞。あなた方が天龍と呼ぶものです。
よって“大協約”の定めた義務の履行を求めます。>




坂東、一之丞…。




以前にも、会った事がある。




何となく、懐かしくて、新城中尉に並んでみる。




一之丞は私に気付かないまま話を続ける。









何でも、戦場の上空に迷い込み、流れ弾に当たって負傷したらしい。




けれど腹を立てる事無く寧ろ自分の過失だといっている。




「寛大なお心、人として感謝致します。」




新城中尉が言い終えるか否か、千早が一之丞の元へと駆け寄った。




「ちは…!申し訳…」




<良い猫を連れておられる。…おや?そちらにも猫が…>




?」




「…ひっ?!」




自分の事と悟ったのか、が一之丞の元へと駆けて行った。




…あ〜あ〜あ〜あ〜…




は私にそうするように、頭を一之丞の体に思い切り擦り付ける。




お願いだからバレてくれるなよ…。




<…この猫、知っている…?もしや、では?>




そうだよ!とでも言う様には元気良くニャ〜!と鳴いた。




<すると、あなたは…!>




心臓が、壊れる位に脈打つ。




「そ、それ以上は!」




慌てて駆け寄り一之丞の口を塞ぐ。




…導術で頭に直接声を届けているなんて、もう覚えていなかった。




「お願いです、私の正体はどうぞ、ご内密に…!」




≪では貴女は、本当に様なのですね?≫




新城中尉にまで声が届かないよう小さく言うと、一之丞は導術を私だけに絞ってくれた。




「…はい。私はです。」




≪やはり…。しかし何故正体を隠し、こんな戦場へ?≫




「それは…」




≪…“”は貴女の兄上様のお名前でしたね。≫




「 … … 」




最後の問いに答えられなかった事で聡い一之丞は全てを悟っただろう。




亡くなった兄様の代わりに私は戦場にいる。




この国を…皇国を守る為、




愛する母様を守る為、




”の名を棄て、“”の名を借り、




私は、この戦地を駆ける。




と共に。




一之丞はじゃれる様にして私の首筋に頭を撫で付ける。




まるで私を、慰めるように。




答える代わりに、私はその頭をぎゅっと抱きしめた。










モドル