相変わらず新城中尉と猪口曹長との会話は私には難しくてわからない。




…いや、わからなくて当然か。




「中隊、打方用意!射的は新城中尉のそれに続け。」




…遂に




「フーー…」




遂に始まるのか




「フーー…」




戦争が。




「フー…」




銃を持つ手が震える。




「…フ…」




腹の底から、震える。




これ、は?




…何を笑っているんだ。」




「…そういう新城中尉だって。」




「…そうか。」




私は急に理解した。




そうか。




これは…恐怖だ。




敵はどんどん近付いてくる。




まだか。




まだだ。




まだか。




…もう少し…。




もう少し、待てば…!




  ――  タァン、ヒヒィィィ、ン  ――  




遠くから銃声がした。




馬の戦慄く声もした。




新城中尉よりも早く発砲した人間がいる!




どこだ?!




辺りを見回してみると戦場に斥候に出た筈の若菜中隊長殿が出ていた。




これで挟撃が成功したとでも言うつもりか!?




「猫は出すな!」




かかった号令に意識を取り戻し、始まった射的に習い馬に照準を合わせ、引き金を引く。




反動の大きさに腕が痺れる…が、そんな事は言ってられない。




すぐに火薬を詰め、また引き金を引く。




「打方やめ!」




「ハァッ、ハァッ…ハァッ…」




知らぬ内に息が上がり、腕が鉛の様に重い。




「中尉殿、あれを。」




猪口曹長が戦場を指差す方を釣られて見る。




残った騎兵が若菜中隊長ら4人に向かって槍を向けていた。




中隊長殿の新城中尉を呼ぶ断末魔の悲鳴が聞こえたが、




「曹長、一刻は過ぎた。後退だ。」




「…はい。」




銃口を肩に預け、新城中尉は立ち上がったが、私は未だ腰が抜けたまま立てないでいる。




「…早く立て、。」




腕を伸ばされる。




私はそれを掴んだ。










モドル