何を…何を言っているんだ、僕は。 ここまで一人の人間を特別視した事は無いだろう。 それも相手はつい先程知り会ったばかりの青年に、だ。 例え大隊長から“宜しく”頼まれているとは言え…。 しかし彼は、本当に男かと疑う時がある。 いや、そうとでも思わないと自分の趣味が危うくなる。 男にしては細く華奢な体躯に、落ちそうな程大きな黒耀の瞳。 「どうされますか、中尉殿。」 猪口曹長に声を掛けられはた、と正気に戻る。 そうだ、今はこの隊の事を優先に考えなければ。 「君の期待している通りだ。後退の準備を完成させるのだ、曹長。 …だが1刻は待つ。そのつもりで準備しろ。」 「敵は半刻でやってくるというのに?」 苦々しい声と表情で言う猪口曹長に僕は向き直って言う。 「命令だからな。僕らはそれを達せられた。…しかし、」 「しかし…?」 「その後は代理指揮官としての権限で行動する。中隊長殿の命令を僕はそう解釈している。 勿論、自分の責任に於いて。」 命令違反とされずに好きにやるのは一刻の後。 その責任は代理である僕だけが負えばいい。 僕のその考えを読んだか知らないが、猪口曹長は息を一つ吐きながら了解、と言った。 2人の会話が私の頭上を通り越して交わされる。 私には何が何やら全くわからなかった。 頭の中にはさっきの新城中尉の言葉がグルグルと回っている。 この人は本当に…読めない。 「行くぞ、。」 「え、」 「…話を聞いていなかったのか。」 「…すいません…」 「敵の足が速い。お前の猫も気付いている…」 「、あ…」 グルルル…とが小さく唸っていた。 そして、改めてこれからの行動を簡単に聞いた。 「…奇襲でもなさるおつもりですか?」 言うと、新城中尉はニィッと笑って 「…かも知れないな。」 モドル |