陣営に千早と戻ると、そこには不穏な空気が漂っていた。 そわそわとしている猪口曹長を見て見ると、若菜とを交互に見遣っていた。 …そうか。 大体、何をしたのかわかる。 僕は無言でに近付いた。 は唸るを宥めるのにずっと頭を撫でていた。 「。」 「…新城…中尉…」 「若菜に何か言われたのか。」 図星らしく、ビクッと肩を震わせた。 「…大したことではありませ」 「嘘、だな。何を言われたんだ?」 「言いたく、ありません。」 僕はじっとを見ながら発言していたが、は一切僕の方を見ようとせず、じっと足元を見ていた。 それ程までに頑なになる理由は何なのか。 …後で絶対に聞き出してやる。 「そうか。」 それだけ言い残して若菜の元へと歩いた。 新城中尉にだけは知られるわけには行かない。 勘の鋭い人だから、私が女だと知られたら隊を外されるに違いない。 …勝てない戦はするもんじゃない。 新城中尉にだけは、勝てない気がする。 いや、勝てない。 自分に言い聞かせ、耳の遠くで中隊長殿、新城中尉、猪口曹長の会話を聞いていた。 そして改めて考えてみる。 言われた言葉自体が気に障ったわけではない。 …“死に場所を求めてきた”には些か腹が立ったが。 私が今、最も恐れている事… 新城中尉に私が『女』だと知られる事。 ただ、それだけだ。 モドル |