…あの人の、たまに見せる笑顔は反則だと思う。




きっと手伝ってくれようとしたのだろう。




しかし今ここで“正体”がばれてしまえば、ここまで来た意味がなくなってしまう。




それだけは避けなくては。




この包帯はサラシ代わりにと、伊藤大佐…ここでは大隊長殿、だったか…が手配してくれたものだ。




勿論、先程新城中尉殿に言い訳した『塞がり切らない傷』もあるが、
そんなに数はないし、激しく動いて開くようなものでもない。




元々そんなに無い胸を更に潰すのは容易かった。




包帯も2本で足りた…残りは予備として取っておこう。




軍服は少し着辛かったが、屋敷にいた頃に無理やり着させられたドレスだとかコルセットよりはずっと楽だった。




軽く屈伸運動をした後に障子を開けた。




…が、新城中尉の姿が見当たらない。




「新城中尉殿?」




キョロキョロと辺りを見回してみると、少し先の足元からこっちだ、と声が聞こえた。




見てみると、廊下にペタッと新城中尉が座り込んでいた。




「やけに長かったな。まるで…」




何を言われるのかと、思った。




「女みたいだ。」




気付かれたのかと、思った。




「…よく、言われます。」




「そうか。」




…しかし、別段気にした様子は無く、のそりと立ち上がった。




内心ほっとしていると束の間、すぐに次の作戦に駆り出される事を告げられた。




「…くれぐれも、頼むぞ。」




「?…は。」









驚いた。









大隊長殿が彼をこんなに目にかけるだなんて。




やはりなにか、あるのだろうか。




「来い、安藤。防寒具を支給する。」




「は。…あ。」




「何だ。」




「自分のことはどうぞ、『』と、お呼びください。」




「…わかった。行くぞ、。」




「は。」










モドル