大隊長殿の出した安藤の処遇は剣虎隊への入隊だった。




彼に軍服を支給するように命じられ、猪口曹長に持ってこさせた。




「それと…包帯を2、3個一緒に持ってきてくれ。」




「包帯、でありますか?」




「あぁ。何でも、ここまで来る途中に負った傷がいくつかあるらしい。」




「広がるのを抑える為、ですか。」




「…らしいな。頼んだぞ、曹長。」




「は。」




正直、大隊長殿のこの言伝には少々疑問が残る。




そんな傷が多くあるのなら、この寒さに体力が奪われているはずだ。




少ない体力でこんな雪の深い所まで来れる筈がない。




…しかし、彼はここまで歩いてきたんだ。




猫がいるとはいえ、一人で。




「…はぁ。」




考えたって仕方がない、か。




とにかく戦闘要員、しかも猫使いは一人増えるだけでも助かるのは事実。




どこまで使えるのかは実践で確かめるしかないが、そこいらの新兵よりは使えるはずだ。




“目”が、違う。




きっと人の殺し方も知っているんだろう。




暫く考えに耽っていると、いつの間にか軍服一式と包帯を4個持った猪口曹長が横に立っていた。




「お持ちしました。」




「あぁ、ありがとう。」




僕はそれを受け取り、また障子越しに入るぞ、と声を掛け、室内へと入った。




「調子はどうだ。」




「お陰様で、大分落ち着きました。」




「そうか…それと、これが軍服、そして包帯だ。」




「ありがとうございます。」




投げるように遣し、彼は何とかそれを受け取った。




いつ着替えるのかとその場で待ってみれば、新城中尉殿、と声を掛けられた。




「…何だ。」




「治りかけの傷はえぐい物ばかりです。自分も余り、ヒトには見られたくないのですが…」




出て行ってくれ、とその目が語っていた。




「…悪かった。終わったら声を掛けてくれ。」




「はい。」




障子を開け、部屋を出た。




近くの壁に背を預け、そのままズルズルと座り込んだ。




本当は負っている傷の具合を見る為、大きければ包帯を巻くのを手伝ってやろうかとの思ったのだが、
拒否されてはかなわない。




「…はぁ…」










モドル