軍議では、剣虎隊は真室大橋を守る為の敵情収集にあてられた。




あぁ、嫌だ。




「…大隊長殿、少し宜しいでしょうか。」




「何だ、新城中尉。」




「先程、安藤と名乗る猫使いの少年を保護したのですが…」




彼の名を聞いた瞬間、大隊長――伊藤大佐は眉を顰めた。




彼を、知っているのだろうか…?




いやしかし、一般人だ。そんな筈はない。




「アンドウ、だと?」




「は。その者の処遇を決めて頂きたく。」




「…本人は何と言っているんだ。」




「は…剣虎隊に志願したい、と…」




「…俺が会ってから決める。後で案内しろ。」




「…は。」




いつもなら言い淀む事無く切って捨てる程の大隊長殿が珍しく言葉を濁した。




やはり何かあるのだろうか…。




決してそういう風には見えなかったが。









解散後、彼の元へ大隊長殿をお連れする。




あぁ、彼には処遇を自分の口から言うのだと思っていた。




これは予想外だった。




彼の休んでいる部屋の戸の外から入るぞ、と一声掛け、障子を開けた。




上半身を起こしていた安藤の姿を認めると、大隊長殿の纏う空気が変わった気がした。




「…あなた…いや、お前が、アンドウか。」




「伊藤、大佐殿…!」




…なんだ、何故だ。




この二人は、顔見知りなのか…?!




「…新城中尉。悪いが、外して貰えるか?」




「…は…」









新城中尉は一礼して部屋から辞した。




まさか、この人がここにいるなんて…。




「…何故、こんな所にいらっしゃるのですか…様。」




「もう、その名は棄てました。今は、安藤です。」




「それは兄上様の…」




「…そう。私は兄様と共に、と共に、この愛する皇国を守る為に、ここに来たのです。」




「…しかし…」




何かを言いたそうに口篭り、伊藤大佐は私から目を逸らす。




「…言いたい事はわかります。自分が戦闘に関して素人だという事も。
でも、ここに来るまでに色々と学んできました。」




「…学んで…?」




「えぇ。人の急所や、殺し方を。」




ここで笑える私は、狂っているんだろうか。




いや、そうとしか言えない。




「…わかりました。」










モドル