歩け、歩け! 動け、動け! あと少しじゃないか、もう少しで…! 最後に聞いたの声。 意識が、保て…ない… 「…はぁ。」 やっと開念寺に着いた。 皆疲れ果て、その場に座り込む者もいる。 …僕もできればそうしたいが、将校である手前易々とはできまい。 隣の千早はそんな僕の思いを感じたか、ニャア、と鳴いて擦り寄ってくる。 ポン、と頭に手を置いてやるとゴロゴロと喉を鳴らした。 が、突然背を伸ばし、何かを聞くように周囲を見回し、耳を立てた。 そして、走り出した。 「あ、お、千早!?」 そのままの勢いで大階段を駆け下り、何処かを目指して走る。 僕はそれに付いて行くので精一杯だった。 暫く走る内に、何故千早が突然走り出したのか、理由がわかった。 何処かで、猫が鳴いているんだ。 まるで、助けを呼ぶ様に。 それは次第にはっきりと僕の耳にも届いた。 そして…千早が走る足を緩めた。 その先には見た事のない猫が横たわっていた。 千早はそれに擦り寄り、挨拶を交わす。 その猫が次に僕を見付けると、す、とその場から立った。 その陰には黒い塊。 人、だった。 近付いて抱き起こしてやるとその体は既に冷え切っていた。 首筋に指を当て、押さえつける。 微弱ではあるが脈はある。 まだ、助かる。 肩を持って抱えあげると猫が僕の前に背を向けて座った。 まるでこの背に乗せろ、と言わんばかり。 青年を猫の背に落ちない様に乗せ、千早を連れ、僕は開念寺へと歩き始める。 モドル |