一歩、遅かった。 先程まで戦場だったそこには無数の屍が転がる。 その中に一人だけ…傷口に布を当てられた人が横たわっていた。 隣には猫もいる…この人の猫だろうか。 「だ、大丈夫か…?!おい、」 「君、は…?」 「安藤、だ。今傷を…」 着ている服を裂いて使おうとするとす、と手を出され、遮られた。 …あぁ、この人は、もう… 「安藤、…聞いたこと、ないな…。俺は、西田…少尉」 「こっちは、キミの猫?」 「あぁ、隕鉄…!」 猫―隕鉄はもう既に息絶えているのだろうが、この西田に呼ばれた時、安心した様に笑った気がした。 がその隕鉄に鼻を擦り合わせた。 「君も、猫持ちなのか…でも、軍人じゃない。」 「そうだ…!本隊とは何処で合流できる?!」 「…本部が…この先の開念寺にある…」 早く行け…そう西田少尉は言い遺し、息絶えた。 手を伸ばし、隕鉄と共に。 これまで見てきたのは私の行く道を遮る、云わば敵の死だった。 そして今回、初めて味方の死と言うものを目の当たりにした。 頬を、熱いものが流れていく。 あぁ、いけない。 凍傷になってしまう。 けれど、溢れる涙は止まらない。 「…歩こう。開念寺に、行かなくては。」 薄く開いている西田少尉の瞼を閉じ、立ち上がった。 何もできなかった自分を許してください。 そして安らかに… 敬礼をして西田少尉に背を向けた。 の背を叩いて歩く様に促す。 ニャア、と鳴いて隕鉄との別れを惜しみ、今度は私を慰める様に寄り添ってくる。 「…やっと追いついたんだ。」 何としても、合流しなくては…! モドル |