良くも悪くも、私は温室育ちだったんだと、家を出て初めて嫌と言う程思い知った。 殺らなければ死ぬんだ。 その現実を良くも悪くも思い知り、人を殺す事を覚えた。 はそんな私を守る様に、人の喉元に喰らい付く事を覚えた。 私はどうしても、生き延びなくてはならなかった。 「行くよ、。」 ニャア、と一鳴きし、血で赫く染まった口元をそのままに、は私について歩き始めた。 今、剣牙虎を連れた部隊―剣牙隊、と呼ばれているらしい―は、他の部隊と共に北領鎮台で応戦中、らしい。 北へ向かうにつれて雪が深くなり、上着も多く必要になり、足が悴んできた。 でも、休んでなんかいられない。 あと少し、もう少しで、追いつくんだ。 しかし、軍隊に素人が一人と一匹で殴り込み、というのは、多分、余り、宜しくはないんだろう。 でも私は。 「このコの為にも、兄様の為にも、自分の為にも…」 剣牙隊に、入らなくては。 名は兄の“”を貰おう。 姓は父方から――母は妾、つまり私は妾の子。 でも父様は私の誕生日を忘れずにいてくれた。 ――五将家“安東”を、読み方を変えずに“安藤”にしよう。 『安藤 』 これが今日から自分の名前となる。 パァン、という遠くから聞こえた音にはっとする。 近い。…もしかして、追いついた…? グオ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オォ…! 虎の咆哮も聞こえてきた。追いついたんだ! 逸る気持ちを抑えて、けれど急いで音と咆哮の方へと向かう。 「やっと、ここまで来たんだ…!」 でも、追いついただけではダメだ。 合流しなくては、なんとしても! 音はどんどん激しくなっていく。 お願い、間に合って――!! モドル |