「…一体何が起こっているの…?」 私の呟きにも律義に反応を返すロードが、面白くないといった風に黙りこくっている。 あれがあのイノセンスの能力…?一体どんな…。 私の探求心は尽きない。 アクマがドームに近付き、それに触れようとしていた。 …あぁ、私も触ってみたい…。中に入ってみたい…。突き破ってみたい…! 近付こうと手を伸ばした間、向かって来た腕にリナリーの座る椅子ごと掴まれた。 「ろーとタマ、たま?!」 「…あ。」 ロードは瞬時に後方に飛びのいたようだが、私は反応が遅れ、そのままドームの中へと引き込まれる。 「うわっ!」 「えっ、誰このヒト…アレン君?」 「…やぁ。どうも。」 「アナタはっ!」 「あぁホラ、私の事は後でいいから。こっち心配したげな。」 「そうだ、リナリー!」 何とか話題を反らし、この空間を見回してみる。 そういえば少年―アレンの傷が塞がっている。 少女―リナリーからは歪み逆回転をする時計が体中から吐き出されていく。 …そうか、あの瞬間、時計が逆回転を始めた…。 時間を吸い出し起こったことをリセットしているのか…? いや、だからといって一度受けた傷は必ず返ってくる筈だ。 時間には制限がある。 自分なりの解釈という世界に没頭している間に3人分の視線が私を突き刺していた。 「…あれ、話、終わってたの?」 「えぇ。…ところで、貴女は一体何なんですか?」 この少年は…まだ解っていないのか。 「私は…私も人間よ。さっきも言ったでしょう?」 「あなたもノアの一族なの?」 「どちらかといえばアナタ達の側だともいったわ。名前は。 それ以上でも、以下でもない。」 「、さん…」 ふ、と思考を巡らせ、再び口を開く。 「ついでにいってしまうと、私はエクソシストよ。」 マント型のイノセンスの力を解放し、蝙蝠のような翼を広げた。 エクソシストの二人の目は驚き、見開かれていた。 「…それが、あなたのイノセンス?」 「そうよ。攻撃力も防御力も持たない、空を飛び、見守るためだけの、イノセンス。」 「そんな!それじゃあ意味が無いじゃないか!」 「私にはこの方が都合が良いのよ。…こんな立場の人間が貴方達の側にもいる筈よ。」 「リナリー…本当?」 「老人と青年…常に行動を共にしている師弟。」 「まさか…!」 「今言えることはこれだけ。じゃあ、ね。」 そのまま私は羽根を広げ宙に浮かび、ドームを突き破って外へ出た。 意外と弾力のある感触に悦を覚えながら、私より少し下の位置で同じく宙に浮いていたロードに並んだ。 「ただいま、ロード。」 「…遅かったじゃん、。」 「ちょっと、ね…」 「もう帰ってこないかと思っちゃったァ…。」 少しだけ、ロードの声のトーンが落ちた。 これは本当に…心配されていたのだろうか。 「何言ってんの。私の帰る所は、ノアしかないのよ。」 ロード頭をポンと叩いてやると、安心したようにヘラッと笑った。 『円舞“霧風”!』 竜巻のような突風と、それに伴う大きな音がドームを突き破り、私たちを掠めた。 「…へぇ〜。エクソシストって面白いねェ。」 「勝負だ、ロード!」 今からここは戦場になる…。 戦うことの出来ない私は更に高い場所へと移動し、事の成り行きを見守ることにした。 …そう、これが私の役目。 私がブックマンでいられる証拠。 下ではロード、アクマとエクソシスト2人が対峙していた。 「…アレンくん、あの子何?劇場で見かけた子よね?」 アクマ?とアレンに尋ねるリナリー。 そうか、この子は未だ、知らないのだ。 「…いいえ、人間です。」 「…そう…。」 アレンはやっとロードが人間だと認め、リナリーはそれを素直に受け止めていた。 「ALLEN!アレン・ウォーカー!アクマの魂が見える奴。」 指で彼の名のスペルを描きながらロードは言う。 「実は僕お前のコト、千年公からちょっと聞いてしってるんだぁ。」 それを私はロードの隣で聞いていた。 ロードにしては珍しく、熱心に、執拗に聞いていた印象がある。 「アンタ、アクマの魂救うためにエクソシストやってんでしょお? 大好きな親に呪われちゃったから。」 アレンの顔は強張る一方、ロードは次第にその顔に湛える笑顔を優しく、柔らかくする。 「だから僕、ちょっかい出すならお前って決めてたんだァ。」 言うとロードはすぐ下にいたアクマを呼び、命令を下す。 「オマエ、自爆しろ。」 この少女は何処までサディスティックになれるのか。 きっと自らのヨロコビの為ならば、何処までもイけるのだろう。 アクマの自爆…それは永遠に救済できなくなることを意味する。 アレンの目的とは全く逆となる。 レロが10から始めたカウントダウンが、2を数えた所でアレンが動いた。 しかし、もう遅い。 ゼロを数え、アクマは自爆した。 アレンも動いたが間に合わず、リナリーに助けられていた。 ロードは高らかに笑い、アレンは助けられた事に憤慨し、リナリーを怒鳴り付けた。 おいおいそれは違うだろうとか思っているとリナリーは平手でアレンの頬を張った。 「仲間だからに決まってるでしょう!?」 なかなか芯のある少女だ。仲間を想い、自身を省みない。 ロードも気に入る筈だ。 「スゴイスゴイ!爆発に飛び込もうとするなんてアンタ予想以上の反応! …でもイイのかなぁ?あっちの女の方は!」 ロードがドームを指差すと、そこには既にアクマがいた。 「行かせるか!」 アレンがアクマに向かって衝撃波を何発も打ち込んだ。 アクマもそれを攻撃を以て防御した。 しかし、リナリーがアクマの背後に回り込んでいた。 そして足に装備していたイノセンスで華麗な蹴りを見舞い、アクマを破壊した。 「壊られちゃったか!今回はここまででいいやァ。ま、思った以上に楽しかったよ。」 床から轟音を立てながら空間同士を繋ぐ扉が現れた。 私もそれで役目が終わったのだと理解し、ロードの隣へと降り立った。 「じゃあねェ♪」 ロードが扉へ向かい背を向けると、後頭部にアレンのイノセンスの銃口が突き付けられる。 けれど、私もロードも動かない。 「…優しいなぁ、アレンは。僕のコト、憎いんだね。…撃ちなよ。 アレンのその手も兵器なんだからさァ!」 彼の瞳からは涙が零れていた。アレンは一体、何の為に泣くのか。 悲しさ?悔しさ?憎さ?怒り? それとも、考えられる可能性、全てかしら。 「でも、アクマが消えてエクソシストが泣いちゃダメっしょ〜。 そんなんじゃいつか孤立しちゃうよォ。」 最後にロードはアレンの顔を見遣って。 「今度は千年公のシナリオのナカでねェ♪」 私はアレンとリナリーを真っ直ぐ見据えた。 「ラビにヨロシク。じゃあ、また会いましょう?」 ロードの扉に私も入る。 バタン、という重い音を立てながら扉は閉まった。 「…。」 「なぁに、ロード?」 「…なぁんでもない。」 「そぅ。」 ロードが言わんとしていることは何となくわかる。 彼女なりに私を心配してくれているのだろう。 私はノア側のブックマン。 裏歴史を記録するのが、私の役目。 片割れと行動することは、いくら望んでも、叶うはずがないのだから―。 モドル |