「あ、起きたぁ〜?」
「リナリー!!」
「へぇ〜、リナリーっていうんだぁ。可愛い名前〜♪」




少女の名を知るとロードは嬉しそうに愉しそうに彼女の頭を抱いた。




「君はさっきチケットを買いに来た…?!君が“ロード”…?」




アレンは驚愕に見開かれた目で続ける。




「どうしてアクマと一緒にいる…?…アクマじゃない、君は何なんだ…?!」




そうだ、この少年は一方の目が呪われていて、アクマの魂が見えるんだった。
…けれどそれは私達に対しては何の脅威にもならない。




「僕は人間だよォ★」




ロードが言う。…そして私もまた、人間だから。




「何、そのカオ。人間がアクマと仲良しじゃいけないぃ?」




アレンはロードのその言葉を聞くと、私の方に視線を動かした。




「…君も、まさか…」




アレンのその問いかけには、YESでもNOでも絶望しか与えられない。
希望なんか、持っちゃいけないんだ。
私は答えを出さず、視線を反らした。




「アクマは人間を殺すために伯爵が作った兵器だ…。人間を狙っているんだよ?」
「兵器は人間が人間を殺すためにあるものでしょお?」




間髪を入れずにロードの放つ言葉は現実を突き付ける。




「千年公は僕の兄弟。僕達は選ばれた人間なの。」




その白い肌を黒く変えながらロードは続ける。




「何も知らないんだねエクソシスト。お前らは偽りの神に選ばれた人間なんだよ。」




そして決定打を無慈悲にも振り下ろす。




「僕達こそ神に選ばれた本当の使徒なのさ!僕達。ノアの一族がね。」








打ちのめされたアレンは譫言を言いながら私達を茫然と見ていた。
ロードはね〜♪と言いながら私にも話を振って来た。




「ロード。私は残念ながらノアの様な能力は持ってないわ。
…どちらかといえば私は…少年に近い。よく知っているでしょう?」
「チェッ。もコッチ側に来ればいいのにィ。
ま、ブックマンだから仕方ないっかァ。」
「…ブック、マン…?」
「ろーとタマシー!!知らない人にウチの事喋ったらダメレロ!」




突然レロが会話に割り込んで来た。その表情は…激しい(何がとは言わない)。




「え〜、何でェ。」
「ダメレロ!大体今回こいつらとろーとタマの接触は伯爵タマのシナリオにはないんレロよ!
レロを勝手に持ち出した上にこれ以上勝手な事すると伯爵タマにペンペンされるレロ!」
「千年公は僕にそんな事しないもん。物語を面白くするためのちょっとした脚色だよォ。」




企んだ悪戯に今まさに獲物が掛かろうとしている時の様な、そんな笑に風い、
畳み掛けるように言葉を続ける。




「こんな事位で千年公のシナリオは変わんないってー。」




次の瞬間、ドン!という激しく大きな音が部屋中に轟いた。
アレンが杭で壁に打ち付けられた自らの左腕を、その杭を突き破りながらも
力ずくで自由としていた。
崩れた壁の向こうには亜空間が広がっていた。
痛みからか興奮し、嫌に殺気立つアレンに、ロードは臆する事もなく近付いていく。




「何で怒ってんのォ?」




投げ出されているアレンの足の間に座り、彼の顔を覗き込んだ。




「僕が人間なのが信じられないの?」




大切そうに、愛しそうに、慈しむように、ロードはアレンを抱きしめた。
私からはロードの表情は伺えないが、きっと愉しそうに笑っているのだろう。




「あったかいでしょお?人間と人間が触れ合う感触でしょお?」
「…同じ人間なのに…どうして…!?」




アレンの異形の左手が更に巨大化し、ロードの小さな背を覆った。
が、アレンの悲痛な呟きと共に襲い掛かることはなかった。
その呟きは私には聞くことが叶わなかった。




「…同じ?それはちょっと違うなァ。…ねェ、。」

「…!ロ」




私がロードを止めるより早く彼女が動いた。
未だ下ろされていなかったアレンの手を、自分の身体に突き立てていた。




「なっ?!自分から…!」




皮膚の焼け爛れる嫌な臭いと共に、ロードの身体は床へと落ちる。










モドル