陽が昇るにつれ街は人で溢れ、賑わいはじめる。
――けれど哀しいことに彼等は皆アクマ。
そして目指すは吸い出された時間が巻き戻っていった中心。
そこに必ずイノセンスはある。
――3日経ち、イノセンスのある場所の大体の検討は付いた。
…そこに向かう途中、見事なまでの大道芸を披露しているカボチャを見つけた。
背格好からすると少年の様だ。
大きなカボチャを頭に被り、街中の少年らを魅了し、器用に大玉に乗っていた。




「あのカボチャスッゲー!!ね、!凄いよ!!」




ロードもそのカボチャに魅せられ、私の手を引きながらその輪の中に加わった。




「本当に凄いわ。何の客引きかしら…ホラー演劇?」
「カボチャと魔女だって!おもしろそ〜!」
「…ロード、見たい?」
「いいの!?やったぁ!みるみる〜!!」
「じゃあチケット買わなきゃ…どこで買えるのかしら。」
「カボチャもいない…聞くついでに探してくる〜♪」




ロードは至極嬉しそうに細い路地へと入っていった。
“カボチャと魔女”…この演劇は毎日やっている。
10月9日が繰り返されているこの街では。
けれどこの大道芸は今日、初めて見る。
きっとロードも気付いているだろう。
彼女は何か考えている。
これから、何かが起こる。




私はブックマン。

見守るに徹するのみ。

マントを翻し、イノセンスの能力を開放する。




「イノセンス……ガーゴイル」




呟くと背中に蝙蝠の様な翼が生える。
それを羽ばたかせ、手近な背の高い建物へと登った。
ロードを見失わないように追っていくと、目立つあのカボチャと既に接触していた。
共に先程カボチャが大道芸を披露していた広場へと向かって歩いていた。
チケットを買うのかと思ったら、その広場で何か起きたらしい。
…何かが起きたにしてもこの街の住民達は全てアクマ。




何か、始まった合図だ。




カボチャの目配せで一人の少女が地面から2階建ての建物へと跳んだ。
彼女はきっと…いや確実にエクソシストだろう。
ではあのカボチャも…?
カボチャの少年も少女の後を追って何処かへと行ってしまった。
一方ロードはその場に残り、少年らと共にいた女性に興味を示していた。
何か、わかったのだろうか。




「お〜い、!」




と思ったら私を見つけ、手を振っていた。
私は再び翼を広げ、ロードの背後へと降り立った。




「ア・タ・リ♪」




棒付きのキャンディを舐めながら、至極愉しそうにロードは言う。




「そう。じゃあ、」




視界に入る黒い上着。
私の片割れが着ているのと同じもの。
それを拾い上げ、ロードに被せた。




「行きましょうか。」




イノセンスの在りか、イコールこの女性の住家。
三日…三回時間が巻き戻っていれば大体の見当も付く。
二人を抱え、彼女の家へ向かって翼を広げた。








「貴女の家はここかしら?」
「…何故、知って…」
「わかるよォ、だってだもん。」




目星を付けていた家が見事にこの女性の家だったらしい。
行儀が悪いとは思いながらも窓から部屋へと入った。




「ロード、出任せを言わない。三日いれば見当も付きます。」
「あのね、この時計がイノセンスなんだってェ♪」
「時計が…納得できるわね。」
「この時計にだけは触らないで頂戴!これだけは…!」
「うっさい。ちょっと黙っててよ。」
「うっ…!」
「!?ちょっと、ロード!」




ロードが女性の腹を殴る鈍い音がすると女性は気を失い、床へと崩れ落ちた。




「ゴメンゴメン。でも静かになったっしょ?」




悪びれもせずロードは言う。
私は半ば呆れ、しかし彼女らしいと思う。
ロードは部屋を見回し、件の時計に目を付けた。




「ふっふ〜ん、これかぁ。」




触れてみようと手を延ばすが叶わず、擦り抜けてしまった。
試しにと気を失っている女性の手を取り、時計に触れさせてみる。
するとしっかりと時計はそこに存在していた。
どうやら適合者にのみ触れられるらしい。




「へぇ〜…ふっしぎぃ。そんなにこの時計が好きならずっと触ってなよ。」




それは親切心なのか、狂気のなせる業なのか。
何処からか取り出した杭を持ち、時計と女性の手とを打ち付けた。




「ロード!」
「大丈夫だよぉ。骨は外してあるしぃ。痛みは目が覚めた頃にはそんなに
感じないと思うよぉ。」




多分★とまた嫌な付け足しをして、女性の手から流れ出る血と真っ新な
壁を見比べ、ニィっと笑った。




「おえかきし〜ちゃお♪」




ロードは自らの拳に傷をつけ血を流し、更に床に広がる血とで壁に文字を書いた。










『FUCK YOU!EXORCIST』










「さァ、SHOW TIMEの始まりだよぉ★」










モドル